「エンゲージメント向上」の道でつまづかないために──エンゲージメントの正体を考える

近年、「エンゲージメント」という概念は、経営や組織改善の文脈で急速に浸透しました。労働市場の流動化や価値観の多様化が進む中、組織改善はもはや「選択肢」ではなく、企業の生き残りをかけた「前提条件」となっています。

しかし、ここで立ち止まる必要があります。

自社にとって、エンゲージメントとは何を指すのか。

この問いに明確に答えられないまま、施策に取り組んでいないでしょうか。

目次

エンゲージメントに「正解」はない

エンゲージメントは、明確な算出基準があるものではありません。市場には多様な診断ツールが存在しますが、何を良好とみなすかは「各社の定義」に依存しています。

だからこそ重要なのは、診断手法を選ぶことではなく、自社なりの「エンゲージメントの定義」をもつことです。定義が曖昧なまま数値を追いかけても、本質的な組織状態は掴めません。

同じ数値でも意味が変わる理由

たとえば、ある企業が「会社への誇り」を重視している場合と、「挑戦への主体性」を重視している場合では、同じスコアでも解釈は異なります。

自社はエンゲージメントをどう定義し、施策の結果としてどのような状態変化を望んでいるのか。これを言語化して初めて、エンゲージメントは感情の問題を超え、明確に「経営成果」と結びつく戦略資産となります。

私たちが考えるエンゲージメントの定義

私たち「TUNAG」では、組織改善の観点からエンゲージメントを次のように定義しています。

「会社と従業員」および「従業員同士」が相互に信頼し合い、組織と自分の成長を重ね合わせながら、主体的に関わる状態

重要なのは、縦(会社と個人)と横(個人同士)の両方に信頼が存在することです。そして、その向上には以下の三つの力が不可欠であると考えています。

1.共感力(共通目的に対する共感)

従業員が会社のミッション・ビジョン・バリューに対して共感し、「自分の仕事が何のためにあるのか」「誰のために貢献しているのか」が明確になっている状態。これにより、日々の業務に意味づけが生まれ、意欲が持続します。

2.信頼力(相互信頼の関係性)

上司・同僚・経営層との間に信頼関係があり、意見を安心して言える心理的安全性が担保されている状態。これは組織文化の土台となる要素であり、組織内の誤解や不満の蓄積を防ぎます。

3.主体性(自律的な行動意欲

自ら課題を見つけ、行動に移せる自律性があり、制度や仕組みに依存せずに動ける従業員の状態。評価や承認が行動と連動していることが、この主体性を加速させるカギとなります。

「従業員満足度」との決定的な違い

エンゲージメントを考えるうえで混同されやすいのが「従業員満足度(ES)」です。両者の違いを整理すると、自社の目指すべき組織像が明確になります。

  • 一方向性の評価か、双方向の関係性か
    従業員満足度は、従業員から会社への「片方向の評価」です。一方でエンゲージメントは、会社と従業員の「相互関係」そのものを指します。これは、どちらか一方が一方的に満足している状態では決して成立しません。お互いが相手に貢献し、高め合うという双方向のベクトルがあって初めて、強固なエンゲージメントは醸成されます。
  • 与えるものか、築くものか
    従業員満足度の対象項目は、会社が従業員に施す条件面が中心に対象になります。報酬や待遇、環境などで満足度が形成されるため、提供すると、その状態が当たり前になりがちで、条件を継続しないと満足度が維持できない状況に陥ります。
    一方でエンゲージメントは相互の信頼関係のため、一度築かれた関係は急に崩れにくいという特徴があります。
  • 個人の価値観か、共通のビジョンか
    従業員満足度は、「高い給与がほしい」「ワークライフバランスを最優先したい」など、個人の多様な価値観やライフステージに左右されます。そのため、全員の満足を追求しようとするとゴールが分散しやすく、時として会社の成長戦略と矛盾が生じるケースも少なくありません。
    対照的に、エンゲージメントは「会社の掲げるビジョン」という共通の目的に向かうための力です。会社が明確な意思(パーパス)を示し、従業員がそれに共感・共鳴することで、目指すべき方向が一つに束ねられます。エンゲージメント向上とは、個人の成長と組織の成長を同じベクトル上で同期させる取り組みです。

「エンゲージメント向上」に飛びつく前に

Gallup社の調査によると、日本の従業員エンゲージメント率はわずか6%と、世界最低レベルの結果が出ています。「熱意を持って仕事に取り組んでいる」と実感している従業員が20人に1人もいないという深刻さです。この危機を打破するために、取り組みを始めるのは価値あることですが、「有名企業がやっているから」といった理由で始めるのは危険です。

本来の順序は逆です。

  1. 自社にとってのエンゲージメントを定義する
  2. 定義に基づき、状態を測る指標(eNPSやサーベイなど)を決める
  3. 自社の文化や課題に合致する施策を柔軟に設計する

エンゲージメントは「定義」から始まる

エンゲージメントとは、単なる感情や満足度ではなく、自社なりの定義を持つことで、初めて意味をもちます。

まず考えるべきは、「エンゲージメントをどう高めるか」ではなく、「何をエンゲージメントと呼ぶのか」。その定義こそが、組織を成長させる基盤となります。

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