インナーマーケティングとは、企業理念や行動指針の浸透、自社ブランドへの理解促進を目的とした社内向けの取り組みです。インターナルブランディングとも呼ばれるこのテーマに本格的に向き合っているのは、多くの場合マーケターではありません。
実際の推進主体は、人事部門や広報・経営企画部門であることがほとんどではないでしょうか。マーケターが関わらない「マーケティング」が行われているのが現状です。
人事施策である「インナーマーケティング」にマーケターの視点を少し掛け合わせてみたいと思います。
なぜインナーマーケティングは機能しにくいのか
通常マーケティングでは、ターゲット設定やフェーズ別の施策、改善サイクルが当然の前提として設計されます。一方、インナーマーケティングでは、全社向けに一律に施策を行ったり、成果指標が定量化されていなかったりと、感覚的な実行に留まるケースが少なくありません。
多くの人事担当者は、インナーマーケティングだけでなく採用や給与計算、人事評価など幅広い業務に追われる中で、そこまで分解して考える時間が取りにくい、という事情が挙げられます。
だからこそ、マーケティングの基本的な考え方を活用する余地があります。
理念浸透をファネルで捉えてみる
例えば、マーケティングで良く用いられる「認知→興味・関心→比較・検討→購買」の「ファネル」を、理念浸透のプロセスで整理してみます。

知る(理念や方向性を理解している)→共感する(信頼関係が芽生えている)→行動する(理念に沿った主体的な行動を取る)→定着する(習慣化されている)
重要なのは、「行動」で終わりではないことです。
組織全体の文化にするためには、その行動が定着した状態をゴールとして設計する必要があります。
一時的に理念に沿った行動が見られても、それが評価制度や上司の声かけなど外部要因によるものであれば、施策が止まった途端に、元の状態に戻ってしまいます。
本当に目指すべきは、その行動が繰り返され、習慣となり、判断基準として内面化される「定着」の状態です。
そのため、施策設計の段階から「どうすれば行動が続くか」「何があれば習慣化するか」までを視野に入れておく必要があります。
すべての段階を一気に高めようとするのではなく、いま自社はどのステップにいるのかを把握し、次に一段引き上げたいのはどこかを明確にする。さらに、その先の「定着」までをゴールとして設計する。
この整理を行うだけでも、理念浸透施策の方向性は格段に明確になります。
抜け落ちがちな2つの視点
①どのフェーズへの施策なのかを明確にしているか
よく起きるのが、フェーズのミスマッチです。
例えば、組織の多くの人がまだ「知る」段階なのに、「理念体現者の表彰制度」といった「行動」フェーズの施策を始めてしまうのは、商品を知らない人にいきなりリピートキャンペーンを打つようなものです。
理念を理解していない状態で「体現者」を求めても、参加者は限定的になってしまいます。
・サーベイや定性的観察を用いて、組織のボトルネックを把握する。
・今回の施策は「知る」を増やすのか、「行動」を増やすのかを明確にする。
こういった整理を行うだけでも、施策の選び方が変わってきます。
これはマーケティングの基本ですが、人事施策にも有効です。
②ペルソナを設計しているか
「全社員向け」という考え方は平等ですが、「どんな人のための施策か」を曖昧にします。マーケティングと同様に、社内でもペルソナを設定し、対象となる人を見つけましょう。
例えば新しい制度を導入する場合、想定すべきペルソナは「すでに積極的な人」ではなく、「少しネガティブな反応をしそうな人」かもしれません。
・なぜその人は参加しづらいのか
・心理的ハードルはなにか
・負担がどこにあるか
ペルソナを置くことで、企画の視点が「作る側」から「使う側」へと移ります。緻密でなくても良いので、「誰のための施策か」を具体的に考えてみてはいかがでしょうか。
人事施策にマーケター視点を持つ価値
インナーマーケティングは、人事が担う重要なテーマです。
そこに、「フェーズで考える」「ペルソナを明確にする」といったマーケティングの基本視点を掛け合わせることで、施策の成果や手応えは変わってくるはずです。
制度を作ることがゴールではなく、従業員が自発的に動きやすくなる状態を設計し、組織を変えていくことが、本来あるべき姿ではないでしょうか。マーケター視点のインナーマーケティングに、ぜひ挑戦してみてください。

