株式会社スタメンで、カスタマーサクセス責任者(VP of Customer Success)を務めている山田です。
エンゲージメントを高めたい。
そう考え、制度を導入したものの、「思ったほど変わらない」という経験はないでしょうか。
理念浸透施策を打っても現場が動かない。
称賛制度を始めても一部しか使われない。
その背景には、組織変容には“段階”があるという共通点があります。
エンゲージメント向上は“階段”である
人や組織はどのようにして変化していくのでしょうか?
そのヒントとして、“行動変容”という視点から捉え直してみました。
以下のような行動変容モデルが有名かと思います。
トランスセオレティカルモデル(TTM)
無関心期 → 関心期 → 準備期 → 実行期 → 維持期
学習の4段階(無意識的無能モデル)
無意識的無能 → 意識的無能 → 意識的有能 → 無意識的有能
組織開発の現場でよく使われるモデル
認知 → 理解 → 納得 → 試行 → 定着 → 共有 → 変容
これらに共通しているのは、行動変容は“階段”であり、“一足飛び”はできないということです。

制度が文化になるまでの9ステップ
各行動変容モデルをヒントに、組織変容のプロセスをより細分化して整理してみました。
これを各ステップ毎に、登山に例えてみました。
だいぶ長くなりますがお付き合いください。

①認知:「そんな課題があるのか」と気づく
最初は、「自社には特に課題はない」と感じている状態かもしれません。
・理念が浸透していない
・承認文化がない
・現場の声が届かない
そうした状態が“普通”になっていると、人は問題意識を持つことすらありません。
組織改善に取り組む際には、ヒアリングや事例収集、現場インタビュー、サーベイ結果などを活用して、「課題に名前をつける」ところからスタートします。(営業の現場では当たり前のようにやってくれていることですが、CSとしても重要なことだと思っています。)
これは登山でいえば、登るべき山があることすら見えていない状態から、「あ、そもそも自分たちは登山口にいるんだ」と気づく瞬間です。
すべての変化は、この“気づき”から始まると思っています。
②理解:なぜその課題が重要なのかを腹落ちさせる
「課題に気づいた」だけでは、人は動きません。
・それがなぜ重要か
・今取り組むべきなのか
などが腑に落ちたときに初めて、行動のスイッチが入ると思っています。
このフェーズでは、経営の想いや他社のストーリー、現場の声を結びつけながら、「課題に取り組む意義」を、論理に加えて“感情”にも訴求していきます。
登山でいうなら、これから登る山の高さや険しさ、登頂したときに見える景色をガイドから聞いて、「登る理由」が腑に落ちる状態です。
地図だけでなくストーリーを伝えるのもポイントです。
③試行:まずは一歩、小さな実践から始める
ここでは「とにかくやってみる」が大切です。ただし、いきなり大規模に始めると、うまくいかなかった時の反発も大きくなります。
本来は全体でやっていくのですが、「サンクスカードを1部署だけで2週間やってみる」「管理職だけでテスト運用してみる」など、トライできる環境から進めてもいいと思っています。
「やってみたからこそ見えてくるものがある」ということが重要です。
これは登山でいう準備運動や試しに坂を登ってみる感覚に近いと思っています。実際に歩いてみて、「意外といけるかも」という実感を得ることで、自然と次のステップに進めます。
④探求:「うちの組織では何が合うのか」を探し始める
試したからといって、すぐに“最適解”が見つかるわけではありません。
このフェーズで大切なのは「答え合わせ」ではなく、「自分たちに合うやり方を探す姿勢」だと思っています。
「このやり方はちょっとしんどいかも」「もっとこうした方が馴染むかも」と感じたら、それは変化が始まっている証拠です。
もちろん一定の成功の型はあるものの、この段階では“型どおりの運用”にこだわらずに、制度や施策を柔軟に調整しながら、その組織独自のスタイルにフィットした形をトライアンドエラーを通じて模索していくことが重要だと考えています。
登山で例えるなら、「このルートは急すぎるから、もう少し迂回しよう」と自分たちに合った登り方を見つけていくようなフェーズです。
⑤解釈:「なぜこの山を登るのか」を再定義する
トライアンドエラーを繰り返したあと、なんとなく良さそうだと運用していた施策が、「自分たちにとって意味のあることなんだ」という意義にたどり着くタイミングがあります。
制度が「やらされるもの」から「自分たちの意味ある取り組み」に変わる瞬間です。
たとえば、サンクスカードが「組織に感謝を根づかせる文化づくり」だったり、理念や想いの共有が「自分の仕事と経営がつながる感覚」だったりということです。
まさに、制度に“魂”が宿る瞬間です。
登山の途中で、ふと足を止めて「なぜこの山を選んだのか」「ここまで登ってきて何を得ているのか」と自問したときに、「自分たちのための登山なんだ」と立ち返る場面のようなものだと思います。意義が深まれば、足取りも力強くなっていくことでしょう。
⑥共感:「他の登山者にも伝えたい」と思う
自分の中に納得感が生まれることで「この良さを他にも伝えたいな」という気持ちが芽生えてきます。その結果、他部署に事例を共有するなど、自発的な横展開が生まれます。
このように自分ゴトになった制度が、他者にも伝播していきます。
「制度が広がる」というより、「熱量が伝播していく」感覚に近いのかなと思います。
登山でいえば、感動した景色を「一緒に見てほしい!」と仲間を誘うようなフェーズです。
自発的な布教活動こそが、習慣化の加速装置となっていきます。
⑦習慣:「息をするように登れる」状態になる
制度の投稿や称賛、フィードバック、理念との結びつけなどが、意識せずとも日常の中で行われていくようになって、初めて「定着した」と言えます。
登山でいえば、登ること自体が当たり前になっており、「今日は登らないと落ち着かない」くらいの状態。習慣になってこそ、文化として根づいていきます。
⑧対話:「次にどの山を登ろうか」を話し合えるようになる
制度が定着したあとに出てくるのが、「この文化をどう活かすか」「次に取り組むべき組織課題は?」という未来志向の対話です。
制度の先にある組織変革や文化浸透、経営との接続など、次の展望を一緒に描いていくフェーズへとシフトしていきます。
登山を終えたチームが、「次はもっと高い山に挑戦しようか」「違う季節の山も登ってみようか」と話すようなワクワクしている状態です。
未来が“自分たちで描ける状態”になっています。
⑨変化:組織として“別の場所に来た”と実感する
「以前はこうだったけど、今はこうなった」という明確な変化を、組織の誰もが実感している状態です。もはや“制度がどうこう”ではなく、組織そのものが変わった感覚です。
組織改善に取り組む立場にとって、最もやりがいを感じる瞬間は、こうした変化が実感できたときではないでしょうか。
登山でいえば、山頂に立って景色を見渡し、「あんなところから登ってきたんだ」と、歩んできた道を誇らしく振り返っている、そんな時間です。
事例:制度が文化へと変わったプロセス
ある医療・福祉業の企業では、「施設ごとに情報が閉じ、理念や感謝の気持ちが現場に届いていない」という課題を抱えていました。
まず、サーベイやヒアリングを通じて【①認知】が進み、
「理念を共有事項ではなく、日々の行動として体現したい」という【②理解】が生まれました。
その後、一部施設で行動指針カード制度を【③スモールスタート】。
運用を重ねる中で、投稿内容や言葉選びを調整しながら【④自社らしい制度設計】をしていきました。
やがて現場から、「これは理念を伝える施策というより、行動を可視化する仕組みだ」という声が上がり、制度の【⑤意味の再解釈】が起こります。
その気づきは他施設にも広がり、【⑥共感による横展開】が自然に進行。
半年後には感謝や貢献を伝え合う投稿が日常化し、【⑦習慣】として根づきました。
その後、「この文化をどう活かすか」という【⑧未来志向の対話】が生まれ、
1年後には「理念が現場の言葉になった」と語られるような【⑨組織変化の実感】へとつながりました。
今回、エンゲージメント向上の行動変容という切り口からステップを丁寧にたどる中で、届けているのは制度そのものではなく、その先にある「行動の変化」や「文化としての習慣」なんだなということに改めて気づきました。
組織に必要なのは「制度を作る」ことではなく、「習慣が根付き、文化が育つ」ことです。
これこそが、エンゲージメント向上の本質ではないでしょうか。エンゲージメントは施策の結果ではなく、日常の反復の積み重ねの先に生まれるものなのだと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。

