株式会社スタメンで、カスタマーサクセス責任者(VP of Customer Success)を務めている山田です。
AIの進化により、スキルそのものがコモディティ化し、「できること」の価値が相対的に下がり続けている現代。組織運営や顧客支援の現場において、私は「役に立つ」こと以上に、その仕事に「意味や意義」があるかどうかを強く意識するようになりました。
今回は、私が多くの組織と対峙する中でたどり着いた、組織を動かし、変えていくために不可欠な「二つの力」についてお話しします。
スキルやノウハウだけで、組織は変わるのか。
正直に言うと、難しいと思っています。
スキルは、正直コモディティ化しやすい時代になったと思います。
AIも含めて、「できること」自体の価値は下がり続けているというのが要因だと考えています。
だからこそ最近は、役に立つこと以上に、意味や意義があるかどうかを意識するようになりました。
※役に立ったり便利になるだけでは、お金にならなくその先に何を見出せるかが重要になってきたと日々感じています。
人は、意味や文脈に投資をします。(これだけではないですが、)
これはビジネスでも、組織でも同じだと思っています。
施策があることよりも、その施策がどんな文脈の中で位置づけられているのか。
便利になることよりも、その変化にどんな意味があるのか。
人は、意味や文脈に投資します。
組織を変えていくというのは、仕組みを変えること以上に、「問い」を立て「意味」を共有し直す営みなのだと思います。
そのために、組織を運営する上でも、個人としても本当に必要な力は何かといろいろ考えてきましたが、今の僕はこの3つに尽きると思っています。
「問いを立てる力」が組織の現在地を照らす
CSとして組織改善に伴走してきたこれまでのキャリアを振り返ると、「役に立った支援」と「意味が残った支援」は必ずしも一致していません。
一時的に喜ばれた施策よりも、「あのときの問いが、今も判断基準になっています」と言われた瞬間のほうが、自分の中でははるかに記憶に残っています。
本質的な価値は、何をやったかよりも、どんな問いを残せたかにあるのかもしれません。
組織でも同じです。
戦略を語ることも、戦術を磨くことも大事。
でもそれ以前に、
・なぜ、それをやるのか
・今、自分たちはどこにいるのか
この2つを、どれだけ解像度高く共有できているかのほうが、はるかに重要です。
Googleマップの価値は、道案内が上手くなったことではなく、「現在地が正確に分かるようになったこと」だと僕は思っています。現在地が分かれば、それが遠回りなのか近道なのか、立ち止まるべきか進むべきか、旗を立て直すべきかの判断ができます。
組織も同じで、「今どこにいるのか」が曖昧なままでは、どんな戦略も空回りします。
組織や仕事の現場で成果が出ない理由は、「頑張りが足りないから」などではありません。
多くの場合、”戦略と戦術の組み合わせが噛み合っていないだけ”です。
整理すると、だいたい次の4パターンに分かれます。
悪い戦略 × 悪い戦術
戦略は「全部やる」。
戦術は「とにかく頑張る」。
優先順位はなく、やることは増え続ける。現場は忙しいが、何も積み上がらない。
努力は可視化されるが、成果は残らない。
一番つらいパターンです。
悪い戦略 × いい戦術
戦略は「〇〇を良くしよう」という抽象的な掛け声。
一方で、戦術だけは磨かれていく。
施策は次々と実行され、一つひとつの打ち手自体は、決して間違っていない。
ただ、向かう先が揃っていない。
結果として、優秀な人ほど疲弊・消耗していく。
いい戦略 × 悪い戦術
戦略は明確で、「今年はここに集中する」と、きちんと決めている。
ただ、その戦略をどう実行するかが現場に委ねられている。
方向は合っているのに、スピードが出ない。
正しいが、前に進まない。
惜しいけれど、成果には届かない状態です
いい戦略 × いい戦術
戦略で「やらないこと」を決まっており、戦術で「迷わないやり方」が決まっている。
現場は判断に悩まない。動けば動くほど、成果に近づいていく。
戦略がスローガンではなく、日々の判断基準として機能している状態です。

整理してみて気づいたのは、
戦略:「何を目指すか」ではなく、「何を捨てるか」を決めること。
戦術:「頑張り方」ではなく、「迷わず動ける形」をつくること。
そして、その起点にあるのが「今、最も向き合うべき障害は何か?」という問いです。
問いを立てる力。
それがなければ、組織は頑張っているのに前に進まない状態に陥ります。
組織を動かすのは「伝える力」
ここで言う「伝える力」は、うまく話すことや、分かりやすく説明することだけを指していません。
背景や文脈、迷いも含めて、なぜその判断に至ったのかを開示する力。
そして、ときにはまだ答えが出ていないことを「分からない」「考え途中です」と言葉にする勇気も含まれていると思っています。
役割が上がるほど、言葉は簡略化されがちで、結論だけが独り歩きしやすくなります。
だからこそ、どこまでを決めていて、どこからがまだ考え途中なのか。
その境界線を丁寧に伝えることが、とても重要になります。
「伝わったことが、伝えたこと」と言われるくらい、これは本当に難しいことです。
どんな立場であっても、相手がいる以上、相手に“自己説得”してもらうために、何を使って、どう伝えるのかは常に求められていると思います。
書類だけをみてのイメージを大きく上回ってくる人と会ったことのある人もいると思いますが、要はそういうことなのだと思っています。
組織を前に進める「逃げない力」
これは、厳しい判断を下すことや、強い言葉を使うことだけを指しているわけではありません。
うまくいかなかった結果に向き合うこと。
耳の痛い意見から目を逸らさないこと。
関係性が揺らぐ可能性があっても、対話を選び続けること。
こういった姿勢そのものだと思っています。
僕はCSという立場に長くいるからか、無意識のうちに、この力は鍛えられてきた気がします。
顧客と対峙している中で、耳の痛い話や都合の悪い話が出てきたときに、はぐらかしたり、論点をすり替えたりしないこと。(論点を変えるのが悪いことではなく、何も回答をせずに変えない方がいいということ)
できないことはできないと伝えた上で、誠実に次の論点へ進む。
たとえば、「TUNAGを入れたら〇〇という結果が出ますか?」と聞かれたときに、「成果が出ている企業ありますよ」という回答よりも、「入れるだけでは結果が出ないし、約束もできません。ただ、上手くいっている企業もあるので、そのための組織の習慣のアップデートの支援は全力でします」と伝えた方が顧客からしても信頼できる人に映るはずです。
値引き交渉をされたときにも、「値引きしたら、御社のエンゲージメントは上がるんですか?そうなのであればこっちも…」と向き合うことも大切です。
これはCSに限らず、営業でも、開発でも、コーポレートでも同じだと思います。
事業やサービスは、全員でつくっています。誰かが逃げると、そのツケは次の誰かに回るだけで、事業全体としては何も解決していない状態になります。
フレームワークよりも大事なもの
世の中には、たくさんのフレームワークやTipsがあります。それらは間違いなく有効です。
でも、正直に言えば、
・問いを立てる力
・伝える力
・逃げない力
正直、少し無責任に聞こえるかもしれませんが、どんなTipsやフレームワークよりも、この力があれば、なんとか前に進めるのではないかというそんな感覚すら持っています。
逆になければあと一歩届かないということになる可能性が高いと思ってます。形にこだわるのも悪くないですが、まずこの3つに向きあうべきだと思っています。
組織を変えていくというのは、特別な才能の話ではありません。
問いを立て、現在地を見極め、
意味を言葉にし、
都合の悪い現実から目を逸らさない。
地味ですが、この積み重ねです。
役員になった今だからこそ、この力はもっと大切にしていきたいです。

