株式会社スタメンで、カスタマーサクセス責任者(VP of Customer Success)を務めている山田です。
前回の記事では「TO-BEを描く」ことの重要性について触れました。
組織改善は、場当たり的に施策を並べても成果につながりません。最初に理想像(TO-BE)を描くことで、施策の優先順位や方向性が定まり、組織に筋の通った改善ロードマップが生まれます。
今回はそのTO-BEをもとに、「組織の現在地をどう見立て、どの順番で施策を打つのか」 を考えるフレーム──四象限マトリクス について紹介します。
今回ご紹介する「四象限マトリクス」は、TUNAGの活用支援から生まれたフレームワークですが、その本質はあらゆる組織改善における「現在地の見立て」と「戦略設計」に応用できる汎用的な地図です。
四象限マトリクスとは
四象限マトリクスは、TUNAGのCSが組織改善を進めるうえでの状態把握とアクション設計のフレームです。

組織改善の四象限マトリクス(※左側が「働きやすさ」、右側が「やりがい」へのアプローチ)
情報共有インフラ
組織改善における基盤。情報が偏ると「知っている人と知らない人」が生まれ、分断や不信感につながります。まずは情報格差をなくし、日常的なコミュニケーションが自然に生まれる土台を整えることが出発点です。
承認・カルチャー醸成
制度や仕組みだけでは文化は育ちません。称賛や共感のやりとりを日常に組み込むことで「ここで働いてよかった」と思える瞬間が増え、働きがいに直結します。これは採用や定着の観点でも不可欠です。
業務ナビゲーション
「やりたいけど、やり方がわからない」が積み重なると、やる気はあっても行動に移せません。ルール・手順・Q&Aが整理されていることで、社員は迷わず動け、自走できる組織へと近づきます。
ベクトルの一致
経営の想いや戦略が現場に届かないと、個人は目の前の仕事に埋没してしまいます。理念や方針を日常的に接続することで「自分の行動が会社の未来につながっている」という実感が育ち、組織全体の推進力になります。
組織改善を進めるために必要な「働きやすさ」と「やりがい」の両面をカバーしています。
生まれた背景
このフレームをつくった背景には、私たち自身の悩みがありました。
当初は、TUNAGへのログイン率や投稿数などといった「表面的に見える数字」と、CS担当者の主観をもとに状態を把握していました。
ヘルススコアを設計して数字を追いかけたこともありました。しかし次第に「数字だけを見ても本質が見えなくなっている」と感じるようになったのです。数字とアウトカムが連動しなかったり、数字以上に企業が効果を感じきれていないという実感が薄い状態でした。
もちろん、利用率を全く見ないわけではありません。
ただ、同じ人が同じ事業を営む組織など存在せず、自分たちが「理想だ」と思う数値だけを当てにするのは危うい。そうすると組織の習慣もアップデートされず、顧客に十分なアウトカムを届けられない。
結果として、CS担当の力量や組織のポテンシャルに依存する「属人的な仕組み化」となってしまっていました。
属人的な部分は最後の一押しとして確かに必要ですし、属人化を悪いとも思っていません。ですが、それ以前に「どの企業でも共通して再現できる仕組み」が不可欠だと考えました。
だからこそ、まずは長く活用いただいている企業に学び、共通項を数字決め打ちで探すのではなく、抽象度の高い視点から最大公約数を掘り下げていきました。さらに活用期間に関係なく成果を出している企業を分析すると、やはり同じ要素に行き着きました。
まさに、トンネルを両側から掘り進めたら中央で開通したような感覚。
振り返ると、これまで追ってきた数字も最終的には四象限の中に収まっており、「数字を追うための数字」ではなく、意味のある枠組みに昇華できたと感じています。

なぜこの四象限なのか
組織改善を考えるとき、なぜこの四象限が必要なのか。
働きやすさとやりがいの両輪を揃えるため
情報や制度の整備だけでは「働きやすさ」しか満たせません。称賛や方向性の共有があってこそ「やりがい」が育ちます。
個人と組織の関係性を360度カバーできるから
情報インフラ(基盤)、承認・カルチャー(心理)、業務ナビゲーション(効率)、ベクトルの一致(戦略)。どれも欠けると組織は歪みます。
優先順位とバランスを可視化できるから
「称賛制度を導入したのに浸透しない」といった失敗は、この視点がないために起きがちです。四象限で見ることで、何を強化すべきか一目で分かります。
再現性があるから
業種や規模に関わらず、この4つの要素は必ず存在します。属人的な成功に依らず、再現性を持って支援を設計できます。
なぜ、このフレームが「TUNAG以外」でも機能するのか
この四象限は、組織を構成する根幹である「文化・仕組み・マインドセット」のすべてに働きかける設計になっているからです。
「仕組み」から「文化」への昇華
情報共有や業務ナビゲーションといった「仕組み」を整えることで、まずは「働きやすさ」という最低限のインフラが保証されます。その上で、承認やベクトル共有を通じて「マインドセット」に働きかけ、最終的にそれらが「文化」として定着していくという、組織変革の王道プロセスをこの四象限が網羅しています。
「働きがい」の構成要素を360度カバー
組織改善の成果として現れる「働きがい」は、決して一つの施策では生まれません。物理的なインフラと精神的な信頼関係、その両輪が揃うことで初めて、人は最大限の力を発揮できるようになります 。
活用方法
四象限マトリクスは、導入企業との「共通言語」として機能しています。
状態把握:企業の状況を四象限で整理することで、経営と現場の認識のズレが可視化されます。
アクション設計:次に取り組むべき領域を合意形成でき、優先順位の誤りを防ぎます。
推移確認:象限ごとにスコアリングし、面で変化を追跡。
特に「導入初期の段階では情報共有インフラを整え、ある程度の接点ができてから承認・カルチャー醸成に進む」といった順番設計は多くの企業に共通するベストプラクティスです。逆に、承認制度だけを単発で導入しても定着しないケースは少なくありません。四象限はそうした落とし穴を防ぐためのナビゲーションでもあります。
経営・人事における「活用方法」
本マトリクスは、冒頭でお伝えしたように、TUNAGの運用に限らず自社の組織状態を診断するために活用できます。
現状診断と認識のズレの可視化
「うちはコミュニケーションが活発だ(=承認・カルチャーができている)」と経営層が思っていても、現場では「業務の進め方が属人的で迷いが多い(=業務ナビゲーションの欠如)」と感じているケースがあります。四象限で整理することで、課題の「構造」が浮き彫りになります。
投資の優先順位付け
例えば、エンゲージメントスコアが低い場合、いきなり「称賛制度」を導入するのではなく、まずは「情報共有インフラ」に不足がないかを確認する。こうした「土台から積み上げる」順序設計によって、施策の形骸化を防ぐことが可能です。
成果を出している企業に共通すること
私たちが見てきた成果を出している企業に共通しているのは、例外なくこの四象限を高い水準で全て運用できている ということです。
例えば、ある企業では、TUNAGを導入したことで「情報共有インフラ」としての機能が全社に浸透し、経営の考えが現場に届きやすくなりました。さらに、称賛や承認の仕組みを強化し「承認・カルチャー醸成」の領域が定着。結果として、現場から自発的に前向きなアイデアが生まれるようになっています。
また別の企業では、「業務ナビゲーション」としてマニュアルやルールをTUNAGに集約したことで、社員が迷ったときの“最初の一歩”が明確になりました。加えて、経営理念と現場の目標をTUNAGを通じて接続し、「ベクトルの一致」の領域を実現。結果として、働きがいの向上や離職率低減にもつながっています。
これらの事例が示す通り、成果を出し続ける企業は単一の施策で勝っているのではなく、四象限すべてをバランスよく磨き込み、組織に習慣として根づかせているのです。

最後に
「四象限マトリクス」は、CSの属人的な勘や経験に頼らず、組織改善を構造的に支援するための仕組みです。そして同時に、最後の一押しとして必要な属人的関与の質も高めるものだと考えています。(これが本当の意味の属人的仕組み化とでもいうのかもしれません)
私たちにとっては、四象限は「顧客の現在地を映すバロメーター」であり、同時に「CS自身のアクションや成長を測るバロメーター」でもあります。だからこそ、顧客と私たちが同じ地図を見ながら前進できるのだと思います。

