停滞か?成熟か?──組織改善を成功させる「相互理解」の力

株式会社スタメンで、カスタマーサクセス責任者(VP of Customer Success)を務めている山田です。

組織改善の道のりは、決して右肩上がりの直線ではありません。導入期・浸透期・再設計期というフェーズを辿ります。その過程で、多くの担当者が直面するのが、施策導入から数年後に訪れる「停滞感」という壁です。
しかし、その停滞感は本当に「停滞」なのでしょうか。

この判別を誤ると、不要なテコ入れや誤ったKPI再設計が始まり、かえって文化を毀損します。

今回は、組織改善を支援する現場でのエピソードを交えながら、組織改善を推進する担当者が持つべき「組織の変化を正しく認識し、次なるステージへ導くための視点」についてお届けします。

目次

「停滞」に見えるものは組織の水準が上がった証拠

ある企業で「称賛文化をつくりたい」という想いから、サンクスカードをはじめとした組織改善の取り組みを始めました。

当初は、社内で「ありがとう」を言い合う習慣がほとんどなかったといいます。上司は部下の改善点を指摘することはあっても、努力や成果を称える文化は根づいていませんでした。社員からは「もっと褒められたい」「感謝を伝える場が欲しい」といった声があがり、離職の背景にも「承認不足」があったそうです。

そこでサンクスカードの運用をスタート。

最初は「こんなものが続くのか?」という懐疑的な空気もありましたが、仕掛けを工夫し、経営層も巻き込み、制度は次第に浸透していきました。気づけば、感謝を伝えることは組織にとって自然な行動になっていました。

しかし、3年ほど経った頃、担当者からこんな不安の声が上がりました。
「最近は直接『ありがとう』と言えるようになったから、わざわざサンクスカードの必要性を感じない。活動が停滞しているのではないか」

ここで重要なのは、組織の状態をどう定義するかです。
そもそもこの組織の原点は「直接感謝を伝えられない」ことにありました。それが今では「直接言えるのが当たり前」になっている。

これは停滞ではなく、組織の習慣がアップデートされたという「素晴らしい変化」そのものです。

組織は「自分の変化」に気づきにくい

なぜこうしたすれ違いが起きるのか。
それは、人も組織も「自分の変化には気づきにくい」からだと考えています。

自分の声を録音で聞いたとき、「え?こんな声なん?」と思った経験があると思います。あるいは自分の顔も、直接は見られず、鏡や写真というフィルターを通してしか確認できません。

組織も同じだと思っています。
「ありがとうが言えなかった組織」から「自然にありがとうが出る組織」に変わっても、その変化は外から鏡のように映してあげないと気づけません。

そして人は変化を「慣れ」として受け止めてしまうので、成果であっても「もう当たり前」と感じてしまいがちです。
ダイエットや筋トレにも似てますよね。体重が落ちても「もっと痩せたい」と思い、筋肉がついても「まだ足りない」と思う。成果が習慣になった瞬間、当事者には成果として映らなくなってしまうのです。

「成果共有」から「組織の相互理解」へのシフト

組織改善の担当者に求められるのは、単に現場の不満を理解することや経営層からのメッセージを発信することだけではありません。大切なのは、経営・人事・現場が「組織の変化」について共通の物差しを持つ「相互理解」です。

相互理解とは、成果指標の共有ではなく、組織の現在地の解釈の共有です。
組織には常に複数のストーリーが存在します。

経営:「投資対効果は出ているのか」
現場:「また新しいことをやるのか」
人事:「文化は変わってきている」

これらが噛み合わないとき、施策は摩耗します。
このタイミングでの人事の役割は、「データを提示すること」ではなく「データを成果に翻訳すること」です。

数値を示すだけでは不十分です。数値の意味が伝わらなければ、相互理解は生まれません。

例えば、登山をしているとき、本人は「まだ全然進めていない」と思っていても、地図を広げて現在地を確認すると「実は標高を300m登ってきていた」と気づけることがあると思います。

ただ地図がなければ「ただ疲れているだけ」に感じてしまい、モチベーションは下がる一方です。
でも地図で進んできた道のりを一緒に確認すれば、「ここまで来られたんだ」とポジティブになり、次のルートを描けるでしょう。

現場が「停滞だ」と感じているときに、「実はこれだけの成長を遂げている」という事実を提示する。ここで初めて、次のステージに進むための土台が整います。この共通認識がなければ、どんな新しい施策を提案しても、現場には「また面倒なことが増えた」という一般論としてしか響きません。

相互理解をつくる4つの具体的プロセス

組織内で「変化の共通認識」をつくるためには、以下のステップが有効です。

  1. 定量的な事実の提示
    利用状況やエンゲージメントデータ(サーベイ等)を整理し、「見えている事実」を共有する。
  2. 「変化」の意味づけ
    その数字の変化が「組織にとってどんな意味を持つか」を裏側で起きていることを想像して伝える。
    例:「投稿数が減った=停滞」ではなく「口頭で感謝を伝える習慣が定着した=進化」。
  3. 共感の確認
    「言われてみれば確かにそうだ」と、社内が腹落ちするポイントを対話で探ります。
  4. 次のステージの提示
    相互理解をもとに、「では、次は何を目指すか」を一緒に描きます。

このプロセスを丁寧に行うことで、組織内で「私たちは同じ景色を見ている」という感覚とともに、「自分たちのことを理解してくれている」という思いも生まれます。

相互理解がもたらすもの

相互理解が生まれると、次のような効果があると考えています。

  • 成果の実感が湧く
    停滞と見えていたものを成長として再認識できる。
  • 次のステージを描ける
    「称賛文化の定着」から「称賛を経営や成果につなげる」へ。
  • 提案が響く
    共通認識があるからこそ、組織への提案が「一般論」ではなく「自社の未来の話」として受け止められる。

たとえば先ほどの企業も、「称賛文化ができた」ことを成果として再認識できたことで、次は「称賛をどう業績やエンゲージメント向上に結びつけるか」という議論に進むことができました。

今回のケースで大事なのは、「称賛文化をつくること」がゴールではないということです。あくまで通過点であり、会社や事業をサステナブルに伸ばしていくための手段だと考えます。

だから「次のステージがない」ということはありません。
相互理解を深めることで、組織は常に一段上の習慣へとアップデートできます。

「変化」を成功とするための注意点

ただし、停滞感を感じているタイミングで「あれは成果でした」と伝えるだけでは、単なる言い訳に聞こえてしまうリスクもあります。それを防ぐための注意点が2つあります。

事前に「成果の定義」を握る

施策を始める前に、「こういう状態になったら、この施策は卒業(成功)だ」という方向性を現場や経営層と合意しておくことが重要です。後から成果を振り返ったときにも「確かにそうだね」と自然に納得感を持ってもらえます。

タイミングを見極める

組織が「今は成果よりも次の行動に集中したい」と考えているときに、成果を強調しても響きません。逆に「停滞感」を抱いているときにこそ、成果を再認識させることが価値を持ちます。

組織改善の真骨頂は「習慣のアップデート」

組織改善のゴールは、特定の制度を導入することではありません。制度に慣れてしまうことを恐れず「当たり前に醸成される組織文化」へと昇華させることこそが本質です。

停滞を「成長」として翻訳し、次の景色を一緒に描く。
データや制度だけでは捉えきれない、人や組織の感情に寄り添い、目線を合わせ続ける。この「相互理解」の積み重ねこそが、組織を常に一段上の習慣へとアップデートし続ける原動力になっていきます。

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この記事を書いた人

新卒で大手サービス系企業に入社。新規・既存営業からマネジメントまで幅広く経験。
2018年3月に株式会社スタメンへ入社。営業からカスタマーサクセスまでを経験し、TUNAG導入企業への活用支援および、組織課題に向き合うコンサルティング業務に従事。
2022年から責任者としてカスタマーサクセス部門の拡大や事業開発部門の立ち上げなど、組織運営・マネジメントを担う。現在はVP of Customer Successとしてカスタマーサクセス部門を統括し、企業のエンゲージメント向上と事業価値の最大化に取り組んでいる。

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